shaula

愛すべき赤の他人

小説

ルージュの楔

件の赤い染みに気がついたのは昼間、洗濯物を干しているときだった。翌日には出かける予定が入っていた。服装に特段の知識もこだわりもない僕は、いつものように白いシャツと明るめの藍のデニムで出かけるつもりでいた。しかし着ていくはずだった白いシャツ…

締まりのない話

部屋は片づいていないけれど別にいい。大切なギターは好きな人に預けた。あとで伏線に気づいたらあいつは泣くかもしれない。返信していないメッセージもない。ないけれどあいつにまた明日ねって送っちゃったっけか。まあいい。それから、遺書。遺書も書いた…

ルダスの悪い癖

ライターの音は憚らずに鳴るきみが目を覚ましてしまうかもしれない昏い部屋で何も知らずに眠るきみとお別れをしなくちゃいけない 夢は見るものじゃなく 消えて忘れゆくもの安らかな恋を叶えられたら じきに朝がくる 煙草のけむりが目に滲みて痛いな涙なんか…

アムネシア

玄関のチャイムは鳴らない。テレビはこの家にない。話し相手もいない。音楽もかけない。ただ、ぼうっとしているだけだ。何も考えないでいるのと、集中してぐるぐる思考をめぐらせているのと、そのどちらでもあるような、中間にいるような。昨日の記憶もあや…

誤算

付き合ってほしい。結局それしか言えなかった。たくさんたくさん考えて練習してきたはずなのに、好きとすら言えなかった。今更つけ足そうにももう遅くて、金縛りにあったように固まったまま返事を待っていた。 「ごめん」 その一言で、解凍された心臓が鳴り…

恋のあとがき、トゥルーエンド

最後の言葉は彼らしくさっぱりとしていた。深さが足りないんじゃなく、涼しげな雰囲気をまとう彼によく似合う答え。彼はどこまでいっても、わたしの恋したあのひとでいるのだった。 手の届かないところにいる人だと、はじめから分かっていた。諦めては惚れて…