shaula

愛すべき赤の他人

愛おしい共犯者──デイライ協奏楽団

ロックバンドはかっこいい

 明けました。めでたい。めでたいことがいっぱいだ!あいつらが新しい歌を引っ提げて、またぼくらの街にやって来るというのだから!

 

 UNISON SQUARE GARDENというバンドがある。

 子どもみたいに純粋で、少年みたいにひねくれもので、大人みたいに諦念をもっていて、恋した彼みたいにかっこよくて、惚れたあの子みたいに愛おしくて、わたしみたいにそっくりで、誰でもないみたいに得体の知れない、ロックバンドである。

 彼らが何者なのかは知っている人も多いだろうし、知らなくても損はしないし、今わたしの口から語るべきことでもない。きみの知り合いだとそうだなあ、グーグル先生に聞くといい。彼は詳しいからね。0.41秒もあれば、ベースが暴れることやら、今ツアーをやってることやら、もうすぐ新しいアルバムが出てまたツアーが始まることやら、ドラムが犬派できなこもち好きなことやら、年越し番組やら主題歌やらやらやら以下略とまぁ、情報大洪水に飲まれる算段である。

 

 とにかくユニゾンについて喋りたくってたまらないことが山ほどあるわけだけれども、今ここでわたしが語るべきことは0.41秒じゃ済まされない。わたしもでっかいこと言える口じゃないが、大好きな歌を解剖したり俯瞰したりしつこく続けていくつもりだ。

 どうか気の向くままにお付き合いくださいませ。

 

開き直るという試み

 語り始めということで前置きが長くなってしまったけれど、新年早々お話ししたいのが『デイライ協奏楽団』。こいつは1stアルバム『UNISON SQUARE GARDEN』に入っている(9年前のだって!)。

 歌詞はこちらに。雰囲気を掴むにはあいちゅんで試聴。4曲目だよ。

 どうしてデイライを選んだかって、

新年早々テンポアップしてはめをはずしたいな

 そういう歌詞が出てくるから。単純!

 

 さてどんな曲かというと、明るい。うきうきするテンポで遊びも詰まっている。正直あたまのよわい歌だとも思えてしまう。

 ところがこれ、実はどんよりしたモチーフと照れ隠しをはらんだ、当時の彼らにとって新たな語り口なんじゃないか?

 

 『デイライ協奏楽団』の性格は、るんるんと跳ねるように明るくて、気軽に愚痴も言えちゃう身軽さで、開き直ったように、居直ったように、からっと晴れた空の日のように底抜けている。こんな調子で歌いだしたのは、もしかして『デイライ』が最初なんじゃないだろうか。

 この1stアルバムの前には2枚のミニアルバムと2枚のシングルを出している。その中にももちろん明るい曲は存在する(たとえば『フルカラープログラム』『ガリレオのショーケース』『箱庭ロックショー』『MR.アンディ』『サンポサキマイライフ』なんかがそうだろう。話せば長い)。けれどこれまでの曲は、さらっと聴いただけでもぐぐっと心に刺さってぐわっと惹きよせられる、そういう感動のしかただ。背負っているメッセージやその伝え方が矢のようにまっすぐで鋭利なのだ。

  比べて『デイライ』は、よりメタ的に加工してある。

 中身が繊細であるぶんだけ、装甲が厚く愉快に仕上げてあるのだ。大真面目に説くことを避け、一聴ではわからないようにすることでバランスをとっているという仕掛け。まるで照れ隠しのよう。かわいい。好き。

 

 じゃあその装甲をめくると何が隠れているのか?

昨日食べようとして水浸しのお米は炊かないまま捨てた

  疲れきっていた昨日。どうも気分が乗らない。動く気力もない。今大事なことはお米じゃなくて、もっと別のところにある気がしてきた。何がどこにあるのかわからないけれど。

フリダシホームシックの俺泣き出しても一人ぼっちで

ああ 帰りてえ

  もといた場所が恋しくなる。のんきに遊んでいられたころが恋しい。気合やら期待やらで元気が有り余っていたころが恋しい。さっきまで他愛ない話をしていた時間が恋しい。お布団が恋しい。あー帰りてえ。

反抗期を迎えてみたが所在がない

 こいつはなかなか厄介な状態だ。

誰も彼もがピーターパンとシンデレラ

 一番わかりやすいのはここだろう。

 ピーターパンシンドローム、あるいはピーターパン症候群として知られるこれは、身体は成長したものの子供のままの精神である男性のことをいう。大人になれない少年、少年に帰りてえというホームシック。

 シンデレラコンプレックスも然り。いつか迎えに来てくれる王子様を待つお嬢様思考、こちらももれなくホームシック

 幼いころもっていたはずの感覚やもといた場所が恋しい、取り戻したい。なんだか疲れた、この世界は居心地が悪い――これが『デイライ協奏楽団』を歌うきっかけであり、日常に落っこちている本質であり、彼らが拾い歌いあげたものだ。

 

君がダイヤモンドを壊して いっそ世界中に散りばめちゃってよ

そして何食わぬ顔で花飾りを刺して

 最高級の宝石だろうが綺麗ごとだろうが良しとされている常識だろうが、そんなもの壊してきらきらにしてしまえ!なんとも爽快な打開策!!さらに何食わぬ顔で着飾った姿!!これまた最高に愛おしい共犯者である。 

アイドンノウ

 この確信犯め。

一瞬だけ王様、いや女王様 

 もうこの世界は僕のものだ。君の世界は君のものだ。苦しゅうない、好きに生きるがいい。そんなことを言ってウインクでも飛ばしてきそうだ。

 だけどもうどうしたって止められないんだ

 疲弊や居心地の悪さの昇華方法として、『デイライ協奏楽団』は新しいアプローチだったと思う。それまでのユニゾンはある程度の悲劇をもっていた。けれどこの歌は、悲劇や痛みを受け入れ、そのうえで弾き飛ばす。表面的な応援とは違う。抱え込んだまま立ち止まっていたわたしを、抜け道へ連れ出してくれた。

 ハイボルテージで街道を!

  シンデレラは自分の王国で好き勝手やることにする。二度と笑えなくなる前に。

 

おまけ

ああ、もう、ねえ、そう

ああもう寝そう

 ギターソロのあと、ラストサビ前のワンフレーズ。ゆるゆるだらだらとした心当たりある日常のワンシーン。

 この遊び心は今でも健在である。『kid, I like quartet』や『I wanna believe、夜を行く』に生きていてこれまた鳥肌が立つ話なのだけれど、しばしお待ちいただきたい。とくに『I wanna believe』に関してはしっかり書くのでお楽しみに。

   ちなみに、『デイライ』と同じ手口の曲があるので追って紹介したい。『ワールドワイド・スーパーガール』『crazy birthday』『オトノバ中間試験』などなど、こちらも待っていてくれ。

 ほかにも、表現のしかたが似ているフレーズに関連づけて語りたい曲もあったりする。例えば、……いやこれもとっておこう。

 

おわりに

 もちろんこれは世界の数ある片隅でひとりのファン、いやオタクが繰り広げる勝手な考察だ。今回暴ききれなかった部分もたくさんある。異論はあるだろうしわたしは自説を推す。そして正解があるとすればユニゾンのみぞ知る、けれど正解するのが大事なことかといえばそれは違う。きみが手に取る瞬間に、その歌は確かにきみのものなのだ。

 わたしのものになった曲をお披露目したいし、よかったらきみのも見せてほしい。だからコメントでもツイッターでもなんでも気軽に話しかけてほしい。それじゃあまたいつか、気が向いたら会おう。次回は『ライトフライト』で。