shaula

愛すべき赤の他人

恋のあとがき、トゥルーエンド

 

  最後の言葉は彼らしくさっぱりとしていた。深さが足りないんじゃなく、涼しげな雰囲気をまとう彼によく似合う答え。彼はどこまでいっても、わたしの恋したあのひとでいるのだった。

  手の届かないところにいる人だと、はじめから分かっていた。諦めては惚れて、また諦めては惚れなおして、そうやってもう何度も失恋した。だからか、今になって急に苦しくなったりはしなかった。予定通りキリトリセンであえなく散った恋は、今までのどんな恋より綺麗だったと思う。遠くへ消えてもまだ憧れるくらいに。

  告白なんかするずっと前から、もう思い出になっていたのかもしれない。つまり、この片思いはずっと前に終わっていた、そういうことなのかもしれない。それならこの、未練とも純粋な恋心とも違う感覚は?

 

  ちっとも思い通りにいかないな、困り顔でそう笑ってみた。とりあえずイヤホンをする。自分の世界を確保するために、あるいは、散らばって消えそうな思考を囲うために。こんなときでもわたしは聴きたい曲を真面目に選んでいる。そんなことしている場合じゃないはずなのに、呑気に何をやってるんだーー嘲り半分、苛立ち半分、唸るようなため息を吐いた。自分に寄り添ってくれる音楽だけをプレイリストに連れ出して身を埋め、抱えているはずの刃ごと自分を美化しているだけだ。どうせそんなところだ。だんだん自分が愚かに思えてきた。


  ひとつ心の痛みがあるとすれば、彼が少なからず気に病んでいるだろうということだ。彼には幸せになってほしいから、彼の望みならば記憶からだってよろこんで消えようと思う。それなのにわたしは余計なものを背負わせてしまった、そのことが申し訳なくて、悔しくなる。もちろんすべてを終わらせるためには必要なことなのだけれど、その身勝手な重さを少しでも多くわたしが担いたい。彼を煩わせたくない。わたしがやらなきゃいけない。始めたことは終わらせなきゃいけない。交わるはずがなかった人の、彼の隣に一瞬でもいられたことを忘れちゃいけない。思い出にして遠ざけちゃいけない......

 

  失恋世界、わたしはこの深い海で、この身が沈みきるのを待っている。

 

 

 

ni℃【@2naword】〈あとがき〉